帰り路のにおい。

2010.06.17 Thursday

開放厳禁と書かれた裏口の戸を,こっそり開けて外に出ると,
思わず目をつむってしまうような,眩しいお陽さまの光。

日傘をさして,辺りを見渡しながらゆっくり歩く。

いつもと変わらない。
優しい街と ひとりぼっちの私。


さぁ, 今日もひとりで どこかへ寄り路。
大好きな歌たちを 耳元で響かせながら。

せっかくの帰り路だもの。 まだ帰りたくないんだもの。
私の大好きな帰り路。

居場所の見つけられない,学校でもなく。
窒息してしまいそうな,家でもなく。

やさしい やさしい 帰り路のにおい。


あ。

ベビーカーを押す女の人が,
お店の扉を開けられなくて 困ってる。

そうだ。 私がドアを開けてあげればいいんじゃない。


カチャリ。

ボーダーの服を着たその人は,私に向かってにっこりと微笑む。
私もおんなじ 微笑みを返す。


ああだけど,
私にできることは 私じゃなくてもできることばかり。


駅に着いて,まだ人もまばらなお昼の電車に乗ってうとうと。

いくらか眠って目をあけると, 車窓から見える私の小さな街。
ずっと電車に揺られていたいけれど ここで降りなくちゃ。

深く座っていた長椅子から急に立ち上がると,クラッとして 景色が揺れる。

ずきんずきん。

頭を抱えながら改札を出て。
駅から出る頃,頭痛がおさまる。


歩道橋を渡って。 階段をおりて。
近所のコンビニへ入ると, 顔なじみの店員さんが。

「いらっしゃい, おかえりなさい」
「髪型, かわいいわね」

「ありがとうございます」

気づいてくれて。

今日はいつもと違う髪型なのよ。
赤毛のアンに出てくるダイアナみたいな,三つ編みの輪っか。

また 微笑みを交わす。


コンビニから出て 少し歩いて,
保育園の前にさしかかると, 私は軽くイヤホンを外す。

子どもたちのはじけるような笑い声を聞いて。

警備員さんが こちらに笑顔を向けて,
「おかえんなさい」 ってあいさつしてくれて。

金網の向こうには 紫陽花が瑞々しく咲いていて。


「…こんにちは」


一瞬の間があいて,私も笑顔で応える。

いつもここで迷ってしまうの。
おかえりなさいに対応する言葉は,ただいまだよね。

ただいまって, 答えたほうがいいのかなって。


…それにしたって, あの警備員さんはえらい。

今日は幸い良いお天気だけれど,
雨の日だってレインコートを着て ずーっと外に立っているんだもの。

下らないことで学校を休む 私とは大違い。


そんなことを想っているうち, 家に着く。



ああ私は 今

この帰り路だけで,
どのくらいの人の やさしさに触れたかな。


ああこんなに こんなにやさしい人たちばかりなのに
きらきらした世界に包まれているのに,

どうして私は調和できないの?



私はいつも独りのような気がするけれど。

憎むには 世界はあまりにも美しすぎて。


ひとのせいになんてできない。

悪い人なんてひとりもいないのに
なじめないのは, 私が悪いせいなんだよ。


世界が綺麗であればあるほど, 自分自身が惨めになってゆく。



大好きな帰り路のにおいは,

優しさと寂しさを, 同時に私にくれるの。

Comment

  1. いしがき より:

    世界はあまりに美しい、に一票!
    そしてその世界にねここは含まれている。
    だって世界なんだもの。
    そんなわけだから、俺も含まれている。
    HAHAHA!!!

  2. 遠山きのこ より:

    私にできることは 私じゃなくてもできることばかり.
    >そんなことないよ(´・ω・`)
     ねこ姫がしたその行為は簡単には出来ないことだと思う…
     そうゆうことできる勇気が自分にはない…
     困っている人がいたら助けたいと思うけど
     思うだけで行動に移せない
     意味不明でごめん
     
     

  3. より:

    この醜くも美しい世界
    ふと思い出した´`
    世界って綺麗なだけじゃない
    汚いモノも悪意もある
    だからこそ
    小さな善意が煌めいて見えるんやないかな。
    みにゃが行った行いも
    大きさがどうであれ、その人の心に響くさ。

  4. ねこ より:

    そうだね、世の中って、やさしさでいっぱいなんだね♪
    最近、世間を斜に見る癖がついてしまってたから、
    やさしさにも目を向けるようにようっと。。。

  5. るんまま より:

    さっきテレビで、心理学の名越先生が言ってた。
    「人間は手を加えないと、どんどん暗く悪くなるもの」
    …生れたままだと、自然の欲求である「欲」や「自我」を抑える事を知らず、人間性が暗く悪くなってゆくと言う意味です。
    でも、教育や様々な人や本との出会いにより
    「自分で良い方向へ 自己修正してゆく、自分で明るくしてゆく」ものだとー。
    …どう思いますか?
    私は、好き勝手に暗くいられるのも、学生の特権だとも思うので、無理に明るくしなくても…とも思います。
    でも「明るさ」は生きてゆくのに、本当に必要なものなので、必要になったら、大人になってきたら、様々な考え・経験の蓄積で、自然とそうなってゆくんじゃないかね~?って思うよ~
    ヽ(´▽`)/ 

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